紀元前500年、孔子の時代には使われていた漢字
世界の文字の系譜を見ると、大きくエジプトの流れを汲むラテン文字文化圏と、中国の漢字の流れを汲む漢字文化圏とがあります。もちろん日本は、後者の漢字文化圏ですね。
漢字のルーツは、本書が対象とする世界史のはじまりよりも前、紀元前15世紀頃の中国殷(いん)王朝の時代でした。占いとして行われていた亀卜(きぼく)の法に、象形文字である甲骨文字が使われていたのです。亀卜の法では、亀の甲羅や獣の骨に質問を刻んで火に当てて、その裂け目によって占いを行っていたと言われています。この象形文字が簡略化されて、漢字を生み出す起源になっていきました。
それから1000年後の紀元前500年頃に孔子が五経を編纂するときには、 漢字は中国において思想を伝える手段になっていたようです。
漢字はほぼ形を変えず、滅亡の危機を乗り越えてきた
ところで、中国の春秋戦国時代には、漢字は地域ごとに字形の差異があったとのことですが、それを統一したのが秦の始皇帝と言われています。そして、前漢の頃に「科挙」という役人の採用試験がはじまってからは、地域ごとの差異がなくなっていきました。
漢字は現在、約15億人が使用しているとされ、表語文字としてはもっとも使われている文字です。そして、2500年もの間、ほぼ形を変えずに現在に受け継がれています。
インドから伝わった仏教は、中国で非常に隆盛を極めました。伝来の際、中国の僧は梵字を使わずに、漢字で経典を訳したのです。とても汎用性のある言語と言えますね。
また、 13世紀のモンゴル帝国(元)による支配のときに、漢字は滅亡の危機を迎えたのですが、中国の文化はモンゴル人のものよりも圧倒的に高度だったようで、逆に中国の文化に吸収されてしまったことで、漢字は滅亡の危機を逃れたという経緯がありました。 さらに言ってしまえば、ワープロやパソコンが普及するときにも、「複雑な漢字をサポートできない!」ということで使えなくなる危機が起こった可能性もありましたが、それは杞憂に終わりましたね。
歴史、表現力、高度性、複雑性を持つ漢字は、最強の文字では?
表語文字としての長い歴史、表現力の高さ、そして文化と一体となったその高 度性、音読みと訓読みという表語文字にも表音文字にもなり得るといった複雑さを考えると、個人的には漢字こそ最強の文字ではないかと考えているのですが、 いかがでしょうか?
このコラムの参考文献、弊社代表取締役 玉原輝基の2作目
『仕事に役立つ、日本人のための情報の世界史』(かざひの文庫)
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